やっぱりこの仕事が好き!

短大を卒業して、もう2年。食物栄養科で勉強した2年間は、とてもたいへんだったけど、それを感じさせないくらい充実していて、楽しかったなぁ…。
栄養士免許証は取得したけれど、クラス全員が栄養士の仕事に就いたわけじゃなかった。“栄養士就職難の時代”で、半分くらいは、直接、栄養士の仕事とは違ったところに就職したんだっけ…私もその中の一人、普通のOL。今の会社は良い人ばかりだし、仕事も楽しいけれど、何かが違うみたいな気がする。

そんなことを考えながら、書類を出しに行った帰り道、おじいちゃんとおばあちゃんのグループが、お花見しているところに出会いました。
「さあ、みなさん、このへんでお弁当をいただきましょう」付き添いのヘルパーさんが声をかけています。近くにあるホームの方々の様子…。そのお弁当を見てビックリ!なんてキレイで、美味しそうなお弁当なんでしょう!松花堂弁当の黒い器に、彩りよく盛り付けられた品々。桜の花型に抜いた御飯は、うっすらとピンク色…梅味かな?魚の焼き物、串にさして食べやすくしたつくね、野菜の煮物、デザートには牛乳と果物の寒天。それに、桜の小枝や、緑あざやかな葉がきれいにあしらわれている…。

きれいなお弁当

あまりにも美味しそうなお弁当に、思わず声をかけてしまった私です。
「あのー、これって、どこのお店のお弁当なんでしょうか?」
「お店?違うよ。これは、ウチのホームの栄養士さんが、考えて作ってくれたお弁当だよ」
「ホームの栄養士さんが…」
今まで、私の中にしまいこんでいた気持ちが、ハッキリしたような気がしました。
やっぱり、私は栄養士の仕事がしたいんだ。

 

 

 

さあ!スタート!

私は、あらためて栄養士の仕事に就くことを決心しました。「2年間のブランクがあるのに、大丈夫かな?」不安はあったけど、もう後戻りはできません。“栄養士”の職種で検索すると、十数件、見つかりました。よく見ると、ひとつの給食専門会社から、いろんな施設に出向いているようです。1年ごとの更新で長期雇用…か。私は、その会社に応募することを決め、面接の日を向かえました。

ひさしぶりの面接で、ちょっと緊張してしまいましたが、≪志望の動機≫を聞かれたときに、自分でも驚くくらい、次から次へと言葉が出てきました。どんなに自分が栄養士の仕事をやりたかったか、あらためて実感しました。結果は、「やる気をかう!」ということで、採用決定です。

栄養士の仕事先は、偶然にも私が栄養士の仕事をめざすきっかけになった、あのホームでした。施設の規模を大きくしたために職員を増員したそうです。よかった、あんな素敵な食事を作っているところで働けるなんて…がんばらなくちゃ。

ホームのセンター長に挨拶して、お話をうかがいました。「おいしい“食事”というものは、人の基本的な楽しみですからね。入居者の皆さんには、四季が感じられるような、アットホームな食事を提供したいんですよ。限られた予算で、大変だとは思いますが宜しくお願いしますね」やっぱり、ここに来られて良かった。“食事”に対する考え方が、私も、同じに思えるから。

 

時間と体力のたたかいです!

このホームでは、デイサービス利用の方が、入居者と一緒に昼食を食べるので、職員の分もあわせると、朝食・夕食のおよそ倍の数になります。

それで、私も昼食をつくるときに厨房に入ります。おもな担当は、特別食。私たちが普通に食べている食事は、≪常食≫といって、盛り付けが終われば、これといって手をかけることもないんですが、そのままの状態では食べられない人のために、手を加えたものが≪特別食≫です。食べやすいように、おかずを全て細かくきざんだ≪きざみ食≫と、それでも飲み込めない人のために、おかずをそれぞれミキサーにかけて、とろみをつけて飲み込みやすくした≪ミキサー食≫に分かれます。

時間と体力との戦い

今になって、学生時代に先生が言っていた「栄養士は体力!」を納得した感じ。およそ100人分のおかずの総量をはかって、常食と特別食にわけ、それからひたすらきざんで、こっちはミキサーにかけて…と、とにかく腕力が必要。そうこうしているうちに、食事を提供する時間はせまってくる!厨房の中をフル回転で動きまわります。盛り付けは、全部同じにそろえて、食欲をそそるようにきれいに整えて…と。確認が終わったら、ワゴンにのせて、ヘルパーさんに申し渡しをしながら、タッチします。

「いただきま~す」「あら、この煮物の味付け、おいしいわね」みなさんの声が聞こえてきました。ふぅ~、毎日のことながら、この瞬間までホッとできないんですよね。でも、この声が聞きたいから、栄養士になったんですから、ウレシイ瞬間でもあるんですよ。

 

遠くて高い…予算の壁

ホームでは、10日ごとに『お楽しみ献立』があるんです。ふだんの食事とは、ちょっと目先のかわったものを作って、みんなで一緒に食べるので、子供の頃の『お楽しみ会』みたいな、にぎやかさがあります。

皆さんの希望は、ヘルパーさんたちに頼んで、前もって聞いておくんですが、毎回、季節を問わず名前があがるのが“ぼたもち”。そんなに続けて、同じものを出すわけにはいかないので、ときどきの登場となっています。あんこ、きなこ、ごまの三種類。もち米を蒸して、つぶして、一個一個、手で成形して、あんこでくるんで…。正直なところ、「もうかんべんして」というくらい手がかかります。でも、今の時代では考えられないくらい、甘いものが貴重だった頃に生きた方々にとって、あんこたっぷりで、甘くておいしい“ぼたもち”は、まさにあこがれの食べ物だったとか。そんな話を入居者のおじいさんから聞きました。「せっかくの“お楽しみ献立”なんだから、ここはひとつ、みんなが喜んでくれるようにがんばらないと!」

もっといろんな形式で、いろんな食事を提供したい、これは誰もが共通して考えていることだと思います。気持ちはひとつでも、そこに立ちはだかる大きな壁が…そう、予算です。どんなにおいしくて、誰もが望んでいるものでも、予算にあわなくては、できません。いくら食事が大切だといっても、そこにあてられる予算内におさめなくては、だいなしになってしまう…厳しいけれど現実です。
予算がたくさんあれば、いくらでも思い通りの食事が作れると思います。でも、いかに予算内で、栄養バランスがよくて、おいしくて、みんなが喜んでくれるものを作るのが、栄養士の能力を問われるところかもしれません。

 

栄養士と管理栄養士の違い

夕食が食べおわった頃、食堂においてある大きいホワイトボードに、次の日の献立を書き込みにいくのが日課です。これって、給食室の中にいることの多い私たちにとって、実際に入居者の方々とふれあえる良い機会なんです。ときどきアンケートで、意見や要望をきいてはいますけど、やっぱり、直接はなした方がいいですものね。

最近、とてもうれしかったことがあります。「家族が作ったものしか食わん!」と言って、なかなか食事を受け付けてくれなかったおじいさんがいて、とても心配していました。でも、一生懸命はなしかけているうちに、ちょっとずつ様子が変わってきて、食事を全部のこさず食べてくれるようになりました。そして私に「家族が作ってくれたものは食べる」と、言ってくれたんです。私のことを、このホームで一緒にすごす家族なんだって、認めてくれたんだ…。

入居者のおばあさんが具合が悪くなり、提携している病院へ。帰ってきたおばあさんに「どうしたの?」と聞くと、「どうも腎臓がよくないらしい」という返事。栄養士として、接する時間が長い私が、なるべく早くよくなるように栄養指導したい…。センター長と話していたら、こんなことを教えてくれました。

「栄養士が栄養指導するのは、もちろん良いことなんだけど、管理栄養士が規定どおりに栄養指導すると、保険診療報酬が発生する。だから、栄養指導は管理栄養士におこなってもらいたい、ということなんですよ」そうなんだ…同じように健康を願って食事を提供していても、違いがあるんですね。決めた!私も管理栄養士になる!そして、もっともっと皆の健康のために仕事をするんだ!