社会がもとめる管理栄養士

毎日、いそがしく過ごすうちに四季はめぐり、あっというまにホームでの3年間が過ぎていきました。短大の食物栄養科で学んだ2年間と、実務経験の年数が合わせて5年になり、私にも管理栄養士の国家試験をうける、受験資格ができたわけです。

そんなある日、私が所属している会社の人事担当者から話がありました。「以前から、管理栄養士の資格取得を希望していましたね。ぜひ、挑戦してください。栄養士と管理栄養士の仕事は、法律的に区別されてはいないのですが、食が多様化して、めまぐるしく変化し続ける現代では、より深く広い知識を持った“管理栄養士”の需要のほうが、圧倒的に多いのです。食物が自由に選べるようになった時代だからこそ、健康に導くための【食のスペシャリスト】を、社会が求めているわけです。

合格率は、平均すればだいたい35%ぐらい。もっと厳しいことを言えば、管理栄養士養成課程の新卒受験者の合格率が80%ほどで、同じ管理栄養士養成課程卒でも、既卒受験者になるとグッと下がって20%弱、あなたのように、栄養士免許を取得後に、実務経験をつんで受験した場合15%をきっています。難しい試験ではありますが、現場を知る管理栄養士は大切な存在ですから、ぜひがんばって取得してください」

これはたいへん…でも、がんばる価値はじゅうぶんある!

 

 

仕事のあいまをぬって…

管理栄養士の試験勉強

それに加えて、今度は試験勉強と格闘することとなりました!試験科目は、全部で9科目、問題数は200問。社会、環境と健康・人体の構造と機能及び疾病の成り立ち・食べ物と健康・基礎栄養学・応用栄養学・栄養教育論・臨床栄養学・公衆栄養学・給食経営管理論。
この9科目を、どうこなしていくか…まずは、基本にもどろう。短大の教科書をひっぱりだして、かたっぱしから読みかえして、復習からはじめることに。教科書のアチラコチラに、小さい字でたくさん書き込みがしてありました。学生だった私が、少しでも詳しく知識を得ようとして、今の私に残してくれたメッセージに見えました。

今までは、食事をとったあと休憩をとっていましたが、その時間さえもったいなく感じて、教科書をつかっての復習に専念することに。管理栄養士の国家試験は年に一度だけですから、とにかくその日にむけて、意識を集中しなくちゃ。家に帰ってからも「あ~疲れたぁ」って感じで、早く休みたいところですけど、ここはひとつ、がんばりどころですよね。家に帰ってからも、必ず勉強してから休むように、自分で自分に義務づけちゃいました。

くりかえすうちに、専門用語や基礎知識が、頭の中によみがえってきた感じです。基本ができたところで、今度は応用。時間は、どんどん過ぎていきます。あせらず無理せず、でも確実にね。

 

 

セミナーでの出会い

ホームの仕事をこなしながら、ひたすら基本の勉強を続けて、3ヶ月がたちました。同じことを繰り返すことに、ちょっと疲れが見えだして…。「なんだかマンネリ化してきちゃった感じ。一人で勉強しているんだから仕方ないけど、黙々と勉強していると、煮つまってくるというか、寂しくなってくるというか…」

私は、短大で助手をしている友人に、電話で相談してみました。「あら、それならオススメがあるわよ。“国家試験対策セミナー”っていうものなの。行ってみたら、いい刺激になるんじゃない?受験科目のわかりやすい解説とか、覚えやすい勉強法とか、講師がおしえてくれるみたい。同じ目的をもった人たちが集まるんだもの、その人たちといろんな話をするのもいいんじゃないかな?」

気分転換だと思って申し込んでみることに…。「基本をしっかり」というところまでは、わかっていた私ですが、その先、どう予定を組んですすめていけばいいのか、迷っていたんです。
来てよかった、と思うもうひとつの理由…≪がんばっているお母さん≫に出会ったことです。私と同じく、栄養士の仕事をしながら受験勉強をしているお母さんです。「小学校と幼稚園に通う2人の子供が、寝てから勉強、起きる前に勉強って感じかな。あとは、通勤のバスの中」
私なんて、一人暮らしで、自分のことだけでも「たいへんだぁ」なんて思っているのに…反省。
私より、もっとがんばっている人がいる。私も、もっとがんばれる!

 

 

お守り、ありがとう

国家試験の日が、せまってきました。教科書で基本をしっかり身につけるところからはじまって、後半は、応用力を身につけるために勉強しました。問題集は、もう、すり切れるぐらい使いました。問題をといてみて、間違ったところを書き出して覚える、というやり方を何回も繰り返しました。書き出してみると、自分がどういったところで間違えやすいか、どの分野に弱いか、ということがよくわかりました。

1年に1度きり、しかも栄養士から実務経験を積んでの受験者にとっては、管理栄養士・国家試験合格への道は、つらくて厳しいものです。それでも、がんばる気力がわいてくるのは、「管理栄養士になって、もっとみんなを健康にしたい!もっと社会に役立ちたい!」という気持ちがあればこそ、なんです。

いつものとおり、ホームでの食事が終わったころ、食堂にいた私に、ホームのおじいさん、おばあさんたちが声をかけてきました。「栄養士さん、なんだかとっても難しい試験を受けるらしいね。それも、今までよりもっと健康に、って考えてくれてのことなんですってね。私たちみんなで、“なんかできることはないかな?”って考えたのよ。それで、近くの神社にいって《合格祈願》の願かけしてきたの。はい、これ。学業成就のお守り。これで絶対だいじょうぶだからね」

ありがとう、ほんとうにありがとう、みなさん。どうして自分が栄養士の仕事に就きたかったか、あらためてわかったような気がします。

 

 

青い空の下

いよいよ試験当日。“管理栄養士をめざす”と心に決めてからの努力は、すべてこの日のためのもの。え~っと、受験票はもったし、お守りもあるし…よし!だいじょうぶ!
試験会場に向かうバスの中から、ホームが見えました。ここへ来たばかりの頃、気持ちばかりあせって、バタバタして、失敗しちゃった…。そのたびに叱られて、教えられて…そんなことの繰り返しだったなぁ。今ここにこうしているのは、このホームで仕事をしたからなんだよね…。

それじゃ、いってきます!

―五月のよく晴れた日―
新緑のやわらかい緑が、目にやさしく映る季節。ポストに、見慣れない封筒がはいっていました。

管理栄養士の合格証書

『管理栄養士合格証書』

合格?!管理栄養士に合格?! やった!ばんざい!うれしい!

―ホームの遠足の日―
今日は、ホームのみなさんの遠足の日です。「お弁当、楽しみにしてるよ」「こんな天気のいい日に、外で食べたらおいしいだろうね」豆ごはんは、食べやすいようにおむすびにしました。それから焼き豆腐の田楽、野菜をたくさん刻んで卵に混ぜこんだ千草焼き、旬のたらの芽はてんぷらにして、フキとタケノコは煮物にしました。デザートは甘くて美味しいイチゴ。がんばって柏餅も作りましたよ。

一度は栄養士の仕事から離れた私が、またこの仕事にもどるきかっけになったのが、ホームのお弁当でした。今、そのお弁当をつくりだしているのは私です。これから先、この仕事をとおして、もっとなにかができるはずです。

「さあ、今日もがんばろう」

青い空の下、思いっきり背伸びをして、給食室へ戻ります。